不揮発性メモリの利用用途

不揮発性メモリとは、電源を切っても記憶内容を保持することができるメモリ全般を総称してこう呼んでいます。昔からあったROMやフラッシュメモリ、強誘電体メモリや磁気抵抗メモリなどはすべて不揮発性メモリの仲間であるということができます。
一方これと区別するために外部から電源を供給してあげないと記憶が保持できないデバイスを揮発メモリとか揮発性メモリと呼んでいるのです。
現在この不揮発性メモリの領域ではかなり先進的な商品が開発され、市場に投入されようとしており、既存のデバイスに革新的な変化を起こす可能性がでてきていることから大きな注目を集めているのです。

■不揮発性メモリを主記憶の導入することでコンピュータは大きく変わる

現在パソコンなどで使われている主記憶(メモリ)はその利用に必須のものとなっており、この部分にはDRAMが広く使われてきました。この形式のデバイスではコンピュータで作成したデータ類は、作成中もしくは編集中は主記憶の中に置かれ、作成完了後は電源を落としても保存ができるようにハードディスクやSSD等の補助記憶装置に保存することでその内容を保持することができるようになっています。DRAMに置かれたデータは電源が消えると一緒に消えてしまうという流れになっていたわけです。

しかしながらこの主記憶の部分がDRAMから不揮発性メモリに入れ替わることになれば主記憶の中で作成途中にあったデータは電源を切っても失われないことになり、主記憶と補助記憶装置の境目というものは事実上なくなることが考えられるのです。シングルレベルストア(単一レベル記憶)という考え方は既に昔のミニコンなどでの導入実績のあるもので、一つのアドレス空間上で主記憶装置と補助記憶装置にアクセスできるようにしたものとなりましたが、今後はこうした方向での利用が加速する可能性が出始めているといえます。

そもそもこうした主記憶と補助記憶の境目がなくなると、ファイルという概念そのものに大きな変化が訪れることも考えられるようになります。

■サーバーのあり方にも大きな影響を与える不揮発性メモリ

主記憶装置の不揮発性化が進めば当然パソコンのみならずサーバー自体にも大きな変化が訪れることになります。とくにデータベース部分については主記憶がDRAMから不揮発性メモリにトランスフォームされるだけでデータは電源を切っても消失しませんから補助記憶装置へいちいち書き込む作業が必要なくなることとなります。これまでオラクルDBであれSQLであれ補助記憶装置への書き込みによる性能劣化をいかに防ぐかに大量の時間を費やしてきましたが、そうした部分がなくなることで飛躍的に性能が高まることが期待されるのです。こうしたことが現実になればデータベースのトランザクションも簡素化が可能となり、そもそもデータベースシステムが大幅に簡素化することが期待できるようになります。現状でもインメモリデータベースは多くのベンダーが投入をはじめておりそのスピードは飛躍的に向上していますが、不揮発性メモリをデータベースに利用した場合には消費電力を大幅に削減することにもつながります。

■MRAMは既に製品化が完了

現実的な普及はまだ先の話になると考えられますが、DRAMの代わりとしてMRAMと呼ばれる不揮発性メモリは商品化がされている状況にあります。ただしDRAM自体が一定の市場を維持し続けていますからこの市場次第でどうなっていくかが決定付けられることになるものと思われます。
したがって当面は主記憶よりはハードディスクやSSDのキャッシュメモリなどから利用されて、徐々に選手交代となることが予想されるところです。

■不揮発性メモリはSSDを超える影響力を発揮

フラッシュメモリを用いたSSDは、磁気ディスクを用いたハードディスクよりも高速なストレージとなりますが、I/Oスタックはハードディスクと同様の状況です。このため、デバイスにデータを書き込む際に生じる遅延、エラー、複数のバッファ間の調整といった問題は、実はそのまま残っているのです。SSDは高速なディスクですが、従来からのハードディスクが抱える問題は解決がついていないわけです。しかし不揮発性メモリは単に高速なだけではなく、電源を必要としない永続性があり、ストレージとしても使用できるメモリであるところが今後市場に大きな影響を与える存在となることは間違いなさそうです。とくにストレージクラスメモリ(SCM)に利用できる点はSSDよりもさらに革新的な存在といえます。

ただし、価格面では依然として課題が残ることになります。価格でNAND型フラッシュメモリを超えられるようになるにはかなり時間がかかり、そのあたりが今後の不揮発性メモリ普及への課題となりそうです。
また、こうした革新的なデバイスが登場する場合、OSやソフトウエアがそれに対応して大きく進化することが求められ、実はこうした開発は平行して進められることが必要となるのは言うまでもありません。しかしこの領域はデバイスの進化ほど進んでいないことも事実であり、プレーヤーチェンジを含めて新たな革新が求められることになりそうです。