クラウドにてディスク性能を保証するには?

仮想化やクラウドサービスが市場に普及するにつれて、ITマーケットはハード、ソフトの販売とソフトの実装から巨大なサービスビジネス市場へとシフトしようとしています。そんな中にあってサービスを利用する顧客はそのサービスプロバイダーに対してディスクのI/Oの性能保証を明確に求めるようになってきています。こうしたディスクのI/Oの性能保証をする場合にはサービスプロバイダーと利用者との間でSLAを締結してそのレベルを維持するという動きも必要となり、そうした契約を締結する動きも現実に出始めているのです。

SLAとはサービスレベルアグリーメントと呼ばれるもので、サービスを提供する事業者と利用者との間でサービスのレベルについて、細かく定義をし、その適用範囲と内容、達成目標などについて事前合意をするというやり方です。クラウドなどの場合、これまではあまり厳しいSLAを締結することはありませんでしたが、今後きわめて厳しい条件を合意するとなれば月額の課金料金にもそれが反映することになってしまいますので、コストが高くなるといったリスクも発生することが考えられ、業界全体としての対応がどうなっていくのかが非常に気になるところです。しかし、そんな中にあっても性能を保証するクラウドサービスプロバイダーが登場して話題になっています。

■クラウドサービスが性能保証を前面に打ち出す

インターネットイニシアティブ(IIJ)は2015年11月に、オールフラッシュストレージをシステムの中核に採用した次世代クラウドサービス「IIJ GIOインフラストラクチャーP2」の提供を開始しています。このサービスは高負荷時でもユーザーのニーズに応じたストレージI/O性能を維持できることが目玉の一つとなっており、様々なシステム規模に対応しただけでなく、性能面でも幅広い選択肢を用意したことで大きな話題を呼びました。開発とテストはベストエフォートタイプで行い、本番環境の稼働に際しては、性能保証タイプに移行する、という運用を可能にしたもので、すべてのユーザーの要求が集中してもI/O性能を保証するという要件をSLAに具体的に明示して追加した点がかなり斬新な取り組みとして注目されているのです。また、NTTネオメイトは2015年10月に同社が提供する「AQStage仮想デスクトップ」において、仮想デスクトップごとにディスクI/O性能を予約できるサービスを提供開始しました。仮想化専用ストレージであるTintri VMstoreをサービス基盤に採用したことにより、仮想マシン単位でIOPSの上限値と下限値を設定することができるようになったとのこと。特定のデスクトップが突発的な負荷増大を起こしたとしても、個々の仮想デスクトップは常に20IOPSを確保できるというディクス性能予約機能を標準で提供しています。これらはクラウドを支えるストレージに対する自信があるだけではなく、やはりネットワークを含めてのクオリティ管理が確立していることを示すものであり、競合他社がどこまでこうしたIIJの動きに追随するかが大きな関心事となりつつあります。


NTTネオメイトのディクス性能予約機能

■性能保証はもはやクラウドの進化には欠かせない要件

パブリッククラウドの世界では、コモディティ化したものを動かすだけではなく、いよいよミッションクリティカルなものも移行しようとするユーザーが出始めていますが、やはりERPなどを移行すると、そのトランザクションボリュームによっては当初期待したとおりのパフォーマンスがでないといった問題が実際に顕在化し始めているといいます。今後こうした顧客をしっかり取り込み、サービス締結後に揉め事にならずに長期の安定顧客として取り込んでいくためには、やはり一定レベルのSLAの締結というものが重要になってくることは言うまでもありません。IIJ、NTTネオメイトに続いて第三、第四の性能保証プロバイダーが登場することになれば、市場は一気に変化することが期待されることになります。

■事はディスクの性能保証だけにとどまらない流れに

ネットを使ったビジネスモデルともなれば、サーバーのレスポンスは事業の利益率にも大きく影響を与える項目となり、ますますその要件は厳しくなる方向に向かっているといえます。数年前まではクラウドだから仕方ないという部分も顧客にはありましたが、今では通常のオンプレミスでの利用と同等以上のレベルを求める顧客が増えており、事はディスクの性能保証だけにはとどまらなくなってきているといえます。業界全体としての動きはまだはっきりしていない状況ですが、今後性能保証を明確に打ち出すサービスプロバイダーはそれ自体が大きな差別化ポイントになり他社を凌駕していく切り札になることも考えられ、ここからの動きがさらに注目されるところです。

数年前まではSaaSのベンダーはサーバーの設置場所などは全く明らかにしなかったものですが、今や国を超えたところに設置していたのではビジネスにならなくなっており、明確に国内に設置しているなどの情報を開示するようになってきています。したがってディスクを含めた性能保証というものも、より明確に保証していく動きになる可能性は高まっているといえそうです。こうした保証はオンプレミスでのサーバーの立ち上げとアプリケーションソフトのインプリメンテーション、ならびにその後の保守管理といったIT業界におけるレガシーなプロセスではまったく想定されなかったものだけに、なかなか業界内では浸透しにくい部分を持っているといえますが、カスタマーセントリックな取り組みの中では既に世界的な流れにもなりつつあるものですから短期間での改善が強くもとめられるものとなりつつあります。